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東京家庭裁判所 平成8年(少)673号 決定

少年 A(昭和○年○月○日生)

主文

少年を教護院に送致する。

少年に対し、平成8年4月26日から向こう1年間に180日を限度として強制的措置をとることができる。

理由

(ぐ犯事由及びぐ犯性)

少年は、平成7年6月教護院に入所したが、無断外泊を繰り返し、自宅に戻って父方祖母に暴行を加えて遊興費を出させたり、自転車盗、恐喝行為をして警察に保護され、平成8年1月以降、教護院に戻ることを拒んで実父の元で生活したが、在籍中学校に登校せず、無断外泊や夜遊びを続けて家庭に寄りつかず、カラオケボックスやゲームセンターに入り浸り、遊興費及び生活費欲しさに恐喝や自動販売機荒らしを繰り返しており、このまま放置されるならば、その性格及び環境に照らして、将来恐喝、窃盗などの罪を犯すおそれがあるものである。

(法令の適用)

少年法3条1項3号本文、同号ロ、ハ、ニ

(処遇の理由)

1  少年は、幼児期、実父母間の喧嘩が絶えない家庭に育ったことから、安定した親子関係を持つことができず、噛みつき等の乱暴な行動、多動傾向が見られ、昭和63年6月、実父母が離婚し、実母が親権者となって少年の監護にあたって以後も、少年の問題行動は収まらず、児童相談所からの勧めもあって、平成2年1月、児童精神科に入院した。入院後、注意欠陥障害として少年に対して薬物療法が進められたが、実母と実父との間で精神科に入院させたことを巡り争いが生じ、治療半ばにして実父が強引に少年を退院させ、以後、実父が実母に代わって監護にあたることとなった。しかしながら、少年の行動は改まらず、実父も十分な養護をすることができなかったため、平成2年12月、養護施設に入所した。少年は養護施設においても、無断外出、無賃乗車、傷害、万引きなどの非行や問題行動を繰り返し、このような状態は、平成4年8月養護学校退所後も改まらず、さらに実父の元に戻ってからも怠学や同級生とのトラブルが続いたため、平成4年9月から平成7年1月までの間、教護院に入所した。平成7年4月、中学校に進学したが、家出、無断外泊、怠学と生活は落ちつかず、警察から児童相談所に通告され、再び教護院に入院し、ここも無断で外出し、認定のとおり、恐喝や自転車窃盗を繰り返し、恐喝により警察に保護されて、実父が少年を引き取った。そして、その後も同様の逸脱行動を続けていたものである。

2  以上のように、少年は、幼児期から実母からも実父からも十分な養護を受けることなく過ごしており、施設、病院を転々としてきた経緯がある。少年は、深刻な愛情欲求不満を抱いており、そのため、情緒が不安定で、安定した対人関係を築くことができず、些細なことで激怒したり、なげやりになって逸脱行動に走っている。実父は、少年に対して愛情を持っており、少年を更生させたい気持ちはあるものの、少年の非行に対して体罰で臨むなど監護者として適切、冷静な指導ができず、その場の気分によって指導態度が変化するため、少年との間に信頼関係を築くことができないでいる。また、福祉施設との連携も協力的に行うことができず、少年を強引に施設から退所させてしまう一方、少年の指導に困ると施設に入所させるように児童相談所や警察に迫るなど一貫した態度をとることができない。

3  以上のように、少年の抱えている問題は深刻であり、家庭にはその指導が期待できないことから、少年を教護院に送致し、受容的な雰囲気のなかで情緒を安定させ、自分の長所を見いださせ、友人や周囲の人との間で真の信頼関係を築いていく経験をさせることが必要不可欠であると判断する。

4  ところで、本件は児童相談所長より児童福祉法27条1項4号に基づいて当庁に送致されたものであるが、その送致書には少年に対する強制的措置の必要性が指摘されている。したがって、本件においては、児童福祉法27条1項4号の送致とともに、家庭裁判所において保護処分として教護院送致が選択される場合には、強制的措置の許可を求めるという趣旨の同法27条の2、少年法6条3項による送致も併せてなされているとみることができる。そして、少年のこれまでの行状に鑑みると、本件においては強制的措置の必要性が十分認められるので、少年に対して教護院に送致するとともに、少年を教護院に落ちつかせるために強制的措置をとりうることとし、その期間として本決定の日から1年間を限り、180日を限度とすることが相当であると判断する。

よって、少年法24条1項2号、18条2項により主文のとおり決定する。

(裁判官 齋藤紀子)

〔参考〕 送致書

送致書(家裁用)

7福北相第×××号

平成8年2月19日

東京家庭裁判所長 殿

東京都○○児童相談所長

下記少年は審判に付するを相談と認め送致する。

(適条児童福祉法27条第1項第4号、少年法第3条第1項第3号のロ及びニ)

少年 氏名 A 昭和○年○月○日生

本籍 韓国済州道北済州郡〈以下省略〉

住所 北区〈以下省略〉

(外国人登録は東京都北区〈以下省略〉)

保護者 氏名 C 昭和○年○月○日生

続柄 父

職業 不明

本籍 韓国済州道北済州郡〈以下省略〉

住所 北区〈以下省略〉

(外国人登録は東京都北区〈以下省略〉)

I 審判に付すべき理由 別紙のとおり

II 処遇意見 別紙のとおり

III 参考事項

1 添付書類

〈省略〉

2 担当者

○○児童相談所 児童福祉司 D

〒〈省略〉 北区〈以下省略〉

Tel〈省略〉

(別紙)

I 審判に付すべき理由

少年は7年6月30日東京都立a学校に入所したが、同11月23日無断外出し、平成8年1月2日b警察署に保護されたが父が引取り、父子共に施設復帰を拒んで措置停止となった。

その後学校に登校せず、家出して友人宅を泊り歩き、ゲームセンター等を徘徊して金品を喝取するなどして4回警察に保護された。平成8年2月13日c警察からの身柄通告により△△児童相談所に一時保護されたが、父が施設入所を拒否して保護者引取りとなった。

父は少年を溺愛するが実際の養育は母及び高齢の父方祖母に任せてきた。愛情をもってしつけを行なうことができず、少年が地域や学校で問題を起こすと児童相談所や警察に少年の施設入所を要求するが、施設入所後に無断外出したりすると施設に帰すことを拒否し、強硬に退所させることを繰り返している。また、関係機関には少年の施設入所を要求するが、少年に対しては、施設入所又は復帰を命ずることができない。

少年は何度も家出し、喝取等を繰り返しており、その性格、環境に照らして将来、恐喝、窃盗等の罪を犯す恐れがある。

(1) 少年の行動

少年の行動は、指導経過録〈省略〉のとおりである。

父母は昭和63年離婚し父が親権者となり、母が養育したが、幼少時から乱暴な行動、他児への暴行等性格行動上の問題を多発し、小学校1年生の時暴行、傷害、悪質ないたずらで警察から児童相談所に通告された。母は児童相談所へ相談したり、d病院(児童精神病院)に入院させたりしたが、少年の問題行動と、父の介入で養育困難となり、平成2年8月から父方祖母が養育した。

平成2年12月東京都立e学園(養護施設)へ入所し、受容的な関わりによりチック等は改善されたが、乱暴な行動(他児を殴る、蹴る)や無断外出、無賃乗車、盗みを繰り返した。平成4年6月4日下校途中に突然同級生に乱暴し、同年9月18日東京都f学園(教護院)に入所した。平成7年1月5日児童相談所及びf学園は反対したが父の強い要求により少年はf学園を退所した。

f学園退所後、少年は地域及び学校で乱暴な行動や盗みを繰返し、同年3月から父は再び児童相談所に対し少年の施設入所を要求し始めた。6月27日g警察署において保護され、6月30日a学校(教護院)に入所した。少年は8月17日無断外出し、8月19日h警察署に自転車盗で身柄を保護されたが、父は教護院入所中であることを明らかにせずに家庭に引取り、児童相談所及びa学校に対し児童の引渡しを拒否した。8月27日父はg警察署に対し、少年が祖母に乱暴することを理由に施設に入所させるよう要求した。8月29日少年は自転車盗によりg警察に身柄を保護され、a学校に帰園したが、父は少年に対しては、直接施設に帰ることを勧めなかった。

少年は11月23日再びa学校から無断外出し、平成8年1月2日、b警察署で喝取により身柄を保護され父は家庭に引取った。1月5日○○児童相談所において児童相談所及びa学校職員が少年を帰園させるよう説得したが、父は応じず港区に転居して、自分が少年の養育に当り、家庭裁師をつけて勉強の遅れを取戻すと主張した。

父は少年の行動を制限して、常に自分と一緒に居るように命じ、日中も自宅や自分の外出先に同行することを少年に強要した。

しかし、少年は父の監護に服さず、学校には1日も登校せず、友人宅に泊まっては、小遣いに困ると金品を喝取したり、自動販売機を壊したりして1月25日にi警察署、2月2日及び13日にc警察署に保護されている。

なお、父と少年は従前通り、入院中の祖母の都営住宅に住んでいる。

(2) 少年の資質、性格等

別紙心理判定書〈省略〉のとおり

(3) 少年の家庭環境等

児童相談所における指導、病院における治療、養護施設における養護及び教護院における教護(2施設)による保護を行ってきた。しかし何れの場合も十分な効果が得られないうちに転居や父による一方的な引取りにより中断されている。

父は自ら少年の家庭引取りを希望するが、少年が問題を起こすと児童相談所等に対し施設入所を度々要求する等一貫性のない養育態度であり、少年は、このことを知っていて、落着いて施設内の指導を受けることができないでいる。

II 処遇意見

本少年の福祉と健全な発達のためには、忍耐強い強力な指導が必要であると思われるが、無断外出の度に父が家庭引取りを行なって、これを妨げている。a学校からも別紙意見書〈省略〉が提出されており、平成8年2月14日当所処遇会議において協議の結果家庭裁判所において審判を求める結論を得た。なお、180日の強制措置を要するものと思料する。

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